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NPO法人PEACE ON相澤(高瀬)香緒里による日誌的記録(~2007年まで)


by peaceonkaori
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バグダード周辺への祈り

PEACE ON現地スタッフのサラマッドからのメール(内容は、代表YATCHのブログ記事「故郷イラクへの旅路」「故郷イラクへの旅路2~バグダード恐怖の日々~」をお読みください)に、白昼のバスルームで口唇からよだれを垂らし、鼻から鼻水を、瞳からは大粒の涙を落として、ご近所の迷惑もかえりみず大きな大きな声でわたしは嗚咽が、終わらなかった。
戦争はなにも、人間の命を奪うだけではないのだ。数千年もの文化遺産を奪い、住みなれた家屋を奪い、学校でのひと時を奪い、人びとのモラルを奪い、お隣さんやお友達の信じるこころを奪い、1人の命が注射器1本よりも安価なものにだってなりうるのだ。路上には遺体があたりまえのようにして転がっている。こどもらはそれらをゴールに、サッカー遊びに興じている。50度の灼熱、死の臭いはみなの嗅覚を狂わせたのか。
明日からバグダードへ帰るという。賄賂だけではどうしようもないことが、ある。わたしは言葉を失う、こんなメールを受けとったあとでは。しかし、泣いてばかりではいけないと思う。しかししかし、どうしても仕事が手につかない。真夜中になって、すなおな気もちをメールに託した。同じ組織のスタッフとしてではなくかけがえのない愛すべき兄弟姉妹として、わたしは2通のメールを打った。
送信は間に合わなかったようで、連絡のないまま数日が過ぎていった。

そしてゆうべ、短いメッセージが届いていた。

親愛なるベストフレンズ、兄と妹へ
君の気もちとグレートな言の葉を、ほんとうにありがとう。
僕は独りじゃないってマジに感じたよ。
すまなく思う、けど僕はバグダードへ来た。お祖母ちゃんの家にいるよ。
どうかしんぱいしないで。モスルに戻ったら、ここでの悲しく恐ろしいライフの詳細を話すから。


今はただ、自分にできるだけの仕事をして、友のぶじを祈り待つしかない。

そして今朝は、イラクからの電話に起こされた。それはサラマッドとは別のイラクの友で、わたしは数日前に笑えないジョークに富んだメールを受けとっていたんであった。

やあ、かおりさん。
メッセージをありがとう。僕はまだ外国へ行くヴィザをゲットできないでいる。オーストリア、英国、カナダ、と試したけれど、不運なことにこんな国じゃあかんたんなことではないのさ。誰もイラク人になんてヴィザをくれやしない。たった1つだけ、とてもかんたんにゲットできるヴィザがあるよ。なんだか分かるかい? それは死のヴィザさ。我われの国では、ちょうかんたんに、じゆうにゲットできるね。そんなこんなで、数日で僕はヴィザ取得をあきらめると思う。成功しなかったら、バグダードへ戻って近郊の村に住むつもり。死のヴィザにトライしてね。
ごめん、こんなことを云って。でも僕はイラク国民として感じている。どんな国も僕を受け入れてはくれないと。
たくさんのありがとうを。


郊外の村ではPC接続はできないから、今後は携帯電話でのやりとりになる。コンタクトの手段がある限り、わたしは連絡をとりつづけようと思う。それだけが、わたしがかれにできるたった1つのことだから、祈りのほかには。

祈り-最後にはわたしは祈ることしかできない気さえする。かれやかのじょやかれやそのご家族、そして死んでいったかれの弟のために。
by peaceonkaori | 2006-08-11 00:13