NPO法人PEACE ON相澤(高瀬)香緒里による日誌的記録(~2007年まで)


by peaceonkaori
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偽装する日常

イラクの友からメールが届く。「明日にでもメールを書くよ」と電話があったきり音沙汰がなかったのでしんぱいしていたのだけれど、とにもかくにもホッ。とはいえ、その内容の重さに読んでいてぐったりとしてしまった。
ニュースにならないことが多すぎる。こまめにニュースをチェックして情勢を追っているつもりになっているのではないか、わたしはまだまだ想像力が足らないのではないか、と初歩的な自問をする。
メールはひどく長く、スペルや文法のミスが目立っていた。それほどに、動揺し報せねばと思っていたということだ。また、いとこが惨殺されたと、その人間とは思えないほどに変わり果てた遺体の写真を送ってくるべつの友。全身の鳥肌が立つむごたらしいそれを撮影する時のかれの心情はいかようか。お悔やみの言葉を綴ったわたしからのメールに、「とってもうれしかったよ」と返すかれの気もちは。
ニュースにならないイラク人の「日常」を、すこしだけでも紹介してみようと思う。つたえられることをつたえることが、メールを受けとったわたしの務めと思うから。

かれのお父さんが、とうとうバグダードから避難した。バグダードを離れるわけにはいかない、と言っていたお父さんなのに。お父さんは、「俺には選択の余地がなかった」と話し始めた。狙われているのがはっきりと分かったからだった。お父さんは恐怖に怯え、状況が良くなるまではバグダードへは戻らないと決心する。
お父さんはイスラーム教スンナ派。今バグダードで移動するには、文字どおりの意味で死のリスクが伴う。…シーア派になりすますしかなかった。誇り高く生きてきたお父さんにとって、立場を偽るという選択がどれほどの苦渋だったことかと思うと、まだ会ったことのないわたしでも顔面の筋肉が硬直する。お父さんは髭をみじかく剃り、黒と白のチェック柄のクフィーヤを頭に巻いて、たくさんの大きなわっかを手にはめた。そう、シーア派みたいに。
米軍の作った分離壁によって、地区は囲まれていた。バグダードでは幾つかの地区において、テロリスト流入の阻止という名目でパレスチナを想起させる壁が建設され、封鎖されているのだ。メインの門から出ようとすれば、警察はお父さんを民兵組織に引き渡すに違いない。お父さんは友達に頼んで民兵の偽IDを入手して、あれこれ工作して、やっとこさ脱出できたのだった。

もちろんバグダードでなくても、危険はつづく。かれは、道路に転がった遺体の写真を送ってきた。ディシターシャを着た中肉中背の男性が、うつ伏せに倒れている。その写真についての友の説明は、まるでそんなことよくあることだよという風に、淡々としていた。
バグダードのお家は、軍組織(民兵かレジスタンスか米軍か)に占拠されてしまうのだろうか。仕方ない、とは口にできない。壊された「日常」。
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by peaceonkaori | 2007-08-01 21:41