NPO法人PEACE ON相澤(高瀬)香緒里による日誌的記録(~2007年まで)


by peaceonkaori
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イブラヒム先生いらっしゃい!~バーミヤのレシピ/『リトル・バーズ』と講演

JIM-NET(日本イラク医療支援ネットワーク)のイラク人スタッフ、イブラヒム・ムハンマドが来日。30数日にも及ぶ、長いスピーキングツアーが始まった。
10日、"フンドコ・イラーキー"(イラク人ホテル)ことPEACE ON事務所にご宿泊いただく。

早くもイブラヒムはお疲れのご様子、食欲がないという。レストランでの夕食は、コーンポタージュとオレンジジュースだけ。お肉はハラール(イスラーム法にのっとった食べ物)しか食べられないし、和食はなんとなく手が伸びないのだろう。
帰りにスーパーマーケットに寄る。イラーキーが来ると、いつもそうするのだ。はじめはフーンといった感じに見ているのだが、「ほら、トマトが1つ1ドルなんよ」と言うと、信じられないという風の顔で驚く。「1キロじゃなくて、1個で?」とイブラヒムも自分が聞き違えたと思っているらしい。きゅうりは3本で1ドル、お茄子は1つ0.5ドル。「トマトは今やから1ドルなんやけど、冬なんか1JD(ヨルダン・ディナール)なんやから」と嘆くわたし。イブラヒムは「高過ぎる、問題や」と繰りかえしていた。そういえばPEACE ON現地スタッフのサラマッドが来た時には、「イラク支援よりも日本の食料支援プロジェクトをやらなあかん」と真顔で言っていたっけ。

PEACE ON事務所は、今までイラーキーがよろこばなかったことはない。
イラク国旗が掲げてあるし、ハニ・デラ・アリシルワン・バランなどのイラク絵画、観光地の写真が散りばめられたイラク土産のTシャツ、ウード(琵琶に似たアラブ楽器)、祈りのための絨毯、イラクのなつめやしで作った団扇などなど、まずは視覚的にイラーキーをウットリさせる。イブラヒムは、国旗を撫でながらなぜかしきりに「おーきに、おーきに」と口にしていた。
イブラヒムはウード奏者ナスィール・シャンマや歌手のカーズィム・アッサーヒルがすきだと言うので、シャンマやカーズィムのCDをかけたら、ほんとう大はしゃぎ。3人で指を鳴らしながら踊りまくってしまった。
イブラヒムが元気になってくれるのは、うれしい。わたしがイラクの衛星放送のシャルキーヤTVに出演した映像を見てわたしの「マルハバ(こんにちは)」の発音に大笑いするイブラヒム、イラクの有名な悪役役者のジャラル・カーミルとおくさんのサナと友達なんだと写真を見せるYATCHに感嘆するイブラヒム、一寸おめかししてズボンにアイロンをあてるイブラヒム、わたし達の結婚式の写真を欲しがるイブラヒム、日本語の縦書きと横書きに感心するイブラヒム、日本人のわたしら夫婦が交わすアラビア語の会話に満足そうなイブラヒム。
イブラヒムは日本に研修に来ていたアンサムとお友達らしく、かのじょが託したノーミーバスラ(乾燥レモンみたいなの)とバハラート(カレー粉)をお土産に携えてくれた。
イブラヒムは突然、「日本にもテロリストがいるのか?」と尋ねてくる。兄が妹を殺した事件を耳にしたらしい。強盗殺人とかではなくて妹を殺めるというのは、断じてあってはならないと言う。多くのイラーキーにするようにイブラヒムにも、1年に3万人以上が自殺するという日本の現実を話すと、イブラヒムもまた仰天し、「1日100人が殺されるイラクと一緒やないか」ととうてい理解できない風だった。
ふとしたことで、「イスティカン(イラクの茶器)にティースプーンが誤って2つ添えられていたら、そのひとは2人のお嫁さんをもらえる」というイラクのお茶にまつわる小噺が話題に出、「わたしアンマンで経験したからお婿さんもう1人やねん」とウキウキ告げると、イブラヒムは「僕は若い頃に幾度もスプーン2つの時あったよ。そうしたら妻は死んじゃった」。なんだかすまない話をしてしまった。おくさんのマリアムは白血病を患い、イブラヒムと3人のこどもを遺して2005年に亡くなったのだ。
おっととわたしが毎晩の習慣にしている黒酢を、イブラヒムもごくごく飲んでくれた。もう3時だ。おやすみなさい。

e0058439_223855100.jpg翌朝、イブラヒムは起きて早々ご飯をこしらえてくれた。イラク料理のバーミヤ(オクラのトマト煮込み)。
イブラヒムはおくさんを看病しながら、いっしょうけんめい料理を振る舞っていた。だからじょうずなんだそうだ。
アラブ人はお食事の前とかなにかを始める前によく「ビスミッラー」と唱えるんであるが、イブラヒムは包丁でお野菜を切る前にも、はたまた階段を下りる前にも「ビスミッラー」とつぶやいていた。ちなみに、くしゃみをした後には「アルハムドゥリッラー(神のおかげで)」と言っていた。

<イブラヒム流バーミヤの作りかた>
1.オクラを茹でる。ザルにあげて、バハラート(カレー粉)をまぶす。
2.オリーブ油で玉ねぎを炒める。つづいてオクラも投入する。
3.トマトとにんにくを入れる。けっこうな強火で、どんどん煮込む。
トマトをかなり煮詰めてコクを出すのがポイントかな。イラクではもっと濃いらしいのだけど、用意したトマト缶は薄いので、長く火にかけていた。
4.水を足す。まだまだ煮込む。途中で味を見ながらお塩で味つけする。バハラートもちょっと追加。隠し味に、ノーミーバスラ(レモン)を入れてみる。
わたしの持っていたオクラはシリアで購入した乾燥オクラだったので、長い時間をかけたほうがいいみたい。日本のオクラは大きくて、イラーキーには不評。

わたしがてきとうに作る和風バーミヤと違って、イブラヒムのバーミヤはとってもシンプル。そして、とってもとーっても美味しい。イブラヒムはうれしがって、何度も「美味しい」の一言を聞きたがった。お水だけで炊きあげた日本のお米を、イブラヒムは不思議そうに食べていた。

今日11日は、イブラヒムが来日して2回目となる講演会。わたしが通訳を務めることになっている。
駅までのタクシでも初乗りが5ドルもする事実に、イブラヒムは耳を疑っていた。前日に乗った京都からの新幹線は片道で100ドル以上だと言うと、イブラヒムはアラブ人がよくするように口笛を吹いて目を丸くしていた。
会場は、最寄駅から10分ぐらい歩いたところ。イブラヒムは気温55度のバスラからやって来たと豪語しているのに、「暑い、暑い」ともんくを言っている。だのに、冷房の効いた涼しい控え室に入ったとたん「健康に良くない」ですって。ンもう。

まず、綿井健陽さんの『Little Birds-イラク戦火の家族たち-』の上映。
わたしはこの記録映画をもう何回も観ている。だけどイラク人と一緒に鑑賞するのははじめてだ。2003年のイラク攻撃開始の前夜から、映画はスタートする。空襲があり、病院はけが人で溢れ、遺体は並べられ、子どもらは遊び、怯え、服が血に染まり、手がもぎれ、人びとは泣き、怒り、苦しむ。隣でイブラヒムは、良くない状況の時にイラーキーがよくやる舌打ちを繰りかえし、その足は困惑や嘆きや同情を示すようにずっと揺れていた。わたしは全身が痛むようだった。このイブラヒムだって、1人の戦争犠牲者なのだ。自国の民が傷ついてゆくのを大画面で見、それはもちろん自分の身の回りでも起こっていることで、深い動揺や悲しみがかれを襲っているのはあきらかだった。イブラヒムが隣にいることで、フィルムにつまり戦火のイラクに彷徨ったような心地になった。だけど日本人のわたしは戦争加害者。劇中にかんじたこの痛みは、イラクの被害にたいする痛みであり、同時に加担させられた痛みなんだと思った。申し訳なさがあたまから離れない。

e0058439_22403562.jpgそしていよいよイブラヒムのトークとなった。
わたしは公の場で通訳させていただくのははじめてだったけれど、前日に打ち合わせをしていたから、イブラヒムが云いたいことをすーっと浮かびあがらせるようにしてつたえた。
イブラヒムは話す。かれ固有の物語を紡ぐ。数学の先生になったこと、経済制裁でみんながイラク国外に逃げたこと、イラク攻撃をイエメンでテレ・ヴィジョンで見て妻と泣いていたこと、ふたごを妊娠した妻が白血病にかかったこと、ふたごの帝王切開と妻の死、JIM-NETとの出会い、病院でのJIM-NETの仕事、電気飲み水もなく戦闘ばかりのバスラの状況、そして医療支援の継続が必要だということを。
終了後、イブラヒムは「ありがとう」と云ってくれた。手ごたえをかんじたようだった。

帰りの道すがら、モバイルショップで立ち止まる。日本はSIMフリーでなくロックされているというへんてこな国なので、イブラヒムはイラクで使う携帯電話は買えない。去りながらイブラヒムは「アリガトウゴザイマシタって日本語で言ったのに、ドウイタシマシテって返さへん。あの売り子はあかん」と憤慨している。
駅前のビラ配りにも吃驚して、「あの娘はお金をばらまいているのか?」とイブラヒム。

夜ご飯は、ペルシャ・トルコ料理屋ザクロにて。イブラヒムは「ワタシハかばぶガタベタイデス」と日本語で練習して、ハラール肉を食べられると愉しみにしてお腹を空かせていたから、満足そうに頬をほころばせている。イラン人の店長アリさんと、イラク人イブラヒムとの国際交流(?)もお見事。

イブラヒムの愛称はバルフーミ!
バルフーミ先生の日本探訪、北海道から九州まで全国各地にあらわれます。スケジュールはJIM-NETのページでご確認ください。
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by peaceonkaori | 2007-08-12 22:40 | 国内活動