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NPO法人PEACE ON相澤(高瀬)香緒里による日誌的記録(~2007年まで)


by peaceonkaori
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来たるべき旅立ちを前に

もう出国の日だというのに、向こうではできないHP更新や封書発送作業などの事務仕事を猛烈な勢いでこなし、徹夜してしまっている。荷造りなんて全然まだ。ぎりぎり魂、アカンなあ。

そんななのに、お昼間は浅草散策、並木藪蕎麦でしっぽりと樽酒をやったりお蕎麦をたぐったり、アンマンで会う人びとへのお土産を買ったりしていた。
夜にはキッド・アイラック・アート・ホールにて「もしも僕がイラク人だったら」 というお芝居を観劇した。SNSのMixiで知った大根健一さんというかたの企画公演で、大根さんはイラクに行ったこともなければ情報に詳しくもないのだけれど、ただ「想像」したのだそうだ。想像に想像を重ねて仕上がったお芝居には、もちろん事実と異なる点もあった。だけど、そんなことは問題ではなかった。大根さんのつぶやきで始まりつぶやきで終わるこの劇は、日本の「ふつー」とリンクさせる効果を確実にあげていた。かれは、ニュースに死傷者の名前や家族構成やその他もろもろの情報がないからと、インターネットで片っぱしから検索し、やっと見つけた1人の青年を主人公に据える。詳細は分からないから、クラスター爆弾で怪我をし、弟とお母さんを亡くしたことにした。その顛末。
想像する作業―それは人間がけっして怠ってはいけない行為のひとつだと、思う。わたしは劇中、2003年春のあの頃を思い出していた。イラク戦争中にイラクへ行きたくてでもけっきょくは行かなくて、日本で毎日毎日、想像していた。イラクのおんなのこの日常を、まだ見ぬその魅力的な国とそこを襲いつくす暴力とを。今でこそこんな仕事をしているから、わたしはイラクを訪れたことがないにもかかわらず、中途半端にイラクを知った気でいるし実際に勉強しなければならない立場ではある。けれどもわたしは想像しているうちに、ほんとうに行ってみたくなったのだ。悶々、悶々と。イエス、それは今でも変わらない。だけど、この情勢の悪化がそれを阻んでいる。くそーっと思う、心底。

1年前の今日9月19日は、PEACE ON初出勤の日でもある。2004年4月の第1次ファッルージャ大虐殺で耐え切れなくなったわたしは、イラクに行きたくてPEACE ONと出逢った。その時はまだ松本で大手企業の秘書に就いていたわたしはさっそく辞意を表明し、退職を迫った。9月20日がわたしの誕生日だから、縁かつぎみたいだけど、それまでにはPEACE ONで働いていたかったのだ。無理をいって17日に最終日、18日は引っ越して、19日から働き始めた。
そして今年の9月20日はアンマンに降り立つ日。
以前から会員さんに、「かおりんはアラブに行くべきですよ」とか「行かしてあげたいねえ、すまんねえ」とか云われてきた。会員さんにそんな風に云われる事務局員、これほど有り難いことがほかにある? なんてハッピーなの、と感謝が絶えない。今回のアンマン行きに際してだって、「飛行機に乗る前に、階段などから落ちないよう、くれぐれも気をつけてください」、「ヨルダンに行っても、イラク入国は絶対しないでくださいね。すごく心配です」、「アンマンへの研修、本当に良かったですね。やはり、隣国とはいえ現地に行かなくては」、「さて、かおりん。あなたもアラブに出掛けて活躍するのですね。いろんなものを観て感動してください!」なんていうお言葉をかけてくださる。お守りまでくだすった。わたし、めぐまれてる。
中東=不安という図式を払拭できないでいる家族や友人知人ですらも、全身でしんぱいしつつかおりのやりたいことだからと見守ってくれている。消え入りそうな声でいってらっしゃいと電話をくれたおちびちゃん(お守りといってバックパックを譲ってくれたり)、「貴方には、貴方を心配して見守っている家族が、元気な帰国を待っている家族が、京都に居る事を忘れないように」と語る父(わたしがお転婆に奔放に国内じゅうを放浪ばっかしていた頃、父がいつも「かおりさんはどこに行っているかわからない。この事故に巻き込まれているかもわからない」とニュースを見るたびこぼしていたのだと、最近になって姉がわたしに諭した)、「現地で『もしかしてイラクに行けるかもよ』なんて話になっても、どうかどうか思いとどまって下さるよう願ってます。PEACE ONの活動が尊いのは分かっていますが、あなたの命は私達にとっては、もっともっと尊い」などと涙を落としてしまうほどの友人からのフレーズ。
今回のアンマン行きの準備を進めているうちに、跪いて祈りを捧げたくなるような瞬間が幾度あったことでしょう。PEACE ONにいて、わたしは愛し愛されて生きるということを学んだ。イラク人のくれるメールのいかにやさしいことか(戦火のなかにいてかれらはこの日本の少女に「I hope you are fine」と書いてくれる)、会員さんらとの会話でいかに元気づけられることか。イラクというわたしにとって未知であり既知であるような国のすぐそばまで出掛けていって、頬ずりをするようなていでわたしは2週間を過ごすんだ。たくさんのイラク人とお友達になってみせる。あふれるユニヴァース、あふれるシュクランを胸に。全力で、お仕事させてもらいます。

最低速度を守れ!ってね。いってまいります。
by peaceonkaori | 2005-09-19 05:02